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Uber Fined 290 Million Euros For Transferring Personal Data Of Europeans To The US

Uber has been fined 290 million euros for transferring the personal data of European drivers to servers in the US, in violation of EU rules, the Dutch data protection regulator said on Monday. The Dutch Data Protection Authority (DPA) said the transfers were a “serious breach” of the EU’s General Data Protection Regulation (GDPR) because

Uber has been fined 290 million euros for transferring the personal data of European drivers to servers in the US, in violation of EU rules, the Dutch data protection regulator said on Monday. The Dutch Data Protection Authority (DPA) said the transfers were a “serious breach” of the EU’s General Data Protection Regulation (GDPR) because [……
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Charles Hoskinson Predicts Privacy Chains Will Define Fourth Blockchain Era

TLDR Charles Hoskinson forecasts privacy chains as the fourth generation of blockchain tech. Zcash surged 150% in 2025, reflecting strong investor interest in privacy tech. Midnight integrates GDPR-compliant privacy features with innovative consensus. Cardano’s DeFi ecosystem exceeds $500M TVL, boosting Midnight’s launch prospects. Charles Hoskinson, the founder of Cardano and Input Output Global (IOG…

TLDR Charles Hoskinson forecasts privacy chains as the fourth generation of blockchain tech. Zcash surged 150% in 2025, reflecting strong investor interest in privacy tech. Midnight integrates GDPR-compliant privacy features with innovative consensus. Cardano’s DeFi ecosystem exceeds $500M TVL, boosting Midnight’s launch prospects. Charles Hoskinson, the founder of Cardano and Input Output Global (IOG…
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Teneo.ai Expands Teneo 8 with AI Agents for Healthcare — Delivering GDPR and HIPAA-Compliant Automation with Full PII Protection and Enterprise-Grade Security

Friday 7 November, 2025 Teneo.ai Expands Teneo 8 with AI Agents for Healthcare — Delivering GDPR and HIPAA-Compliant Automation with Full PII Protection and Enterprise-Grade Security Teneo.ai, the agentic AI company transforming enterprise contact centers, today announced the expansion of its Teneo 8 platform with AI Agents for Healthcare — a secure…

Friday 7 November, 2025
Teneo.ai Expands Teneo 8 with AI Agents for Healthcare — Delivering GDPR and HIPAA-Compliant Automation with Full PII Protection and Enterprise-Grade Security
Teneo.ai, the agentic AI company transforming enterprise contact centers, today announced the expansion of its Teneo 8 platform with AI Agents for Healthcare — a secure…
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マルチクラウド戦略に潜む「統治困難性」という罠

もはやクラウドは、現代の企業活動において不可逆的なインフラとなった。AWS(アマゾン ウェブ サービス)、Microsoft Azure、Google Cloud(GCP)の3大プラットフォームが市場の大部分を占める中、世界中の企業がその上でビジネスを構築している。日本においても「脱オンプレミス」は長年のスローガンであり、多くの企業がクラウド移行を推進してきた。オンプレミス時代には数年がかりであった新システムの導入が、クラウド時代には数週間で立ち上がる。この圧倒的な「俊敏性」こそが、クラウドがもたらした最大の価値であった。 しかし、単一のクラウドに全面的に依存すれば、そのサービスで発生した障害、突然の価格改定、あるいはサービス仕様の変更といった影響を、回避する術なく受け入れなければならない。2021年9月に発生したAWS東京リージョン関連のDirect Connect障害では、約6時間にわたり国内の広範なサービスに影響が及んだ。また、同年、Peach Aviationが経験した予約システム障害も、単一のシステム依存のリスクを象徴する出来事であった。開発元が「マルウェア感染」を原因と公表し、復旧までに数日を要したこのトラブルでは、航空券の購入や変更手続きが全面的に停止し、多くの利用者に混乱をもたらした。 こうしたリスクを回避し、また各クラウドの「良いとこ取り」をするために、企業がマルチクラウド戦略を採用するのは合理的な判断である。事実、Flexeraの2024年のレポートによれば、世界の企業の89%がすでにマルチクラウド戦略を採用しているという。しかし、この急速な普及の裏側で、企業側の「統治(ガバナンス)」は全く追いついていないのが実情だ。 アイデンティティとアクセス管理(IAM)、システムの監視、各国のデータ規制への対応、そしてコスト管理。複数のクラウドを組み合わせることは、単なる足し算ではなく、組み合わせの数に応じて複雑性が爆発的に増加することを意味する。マルチクラウドという合理的な選択は、同時に「統治困難性」というパンドラの箱を開けてしまったのである。この深刻な問題はまず、目に見えないインフラ層、すなわちネットワーク構成の迷路から顕在化し始めている。 接続と権限の迷宮:技術的負債化するインフラ マルチクラウド戦略が直面する第一の壁は、ネットワークである。クラウドが一種類であれば、設計は比較的シンプルだ。VPC(AWSの仮想プライベートクラウド)やVNet(Azureの仮想ネットワーク)といった、そのクラウド内部のネットワーク設計に集中すればよかった。しかし、利用するクラウドが二つ、三つと増えた瞬間、考慮すべき接続経路は指数関数的に増加する。 例えば、従来のオンプレミス環境とAWS、Azureを組み合わせて利用するケースを考えてみよう。最低でも「オンプレミスからAWSへ」「オンプレミスからAzureへ」、そして「AWSとAzure間」という3つの主要な接続経路が発生する。さらに、可用性や地域性を考慮してリージョンを跨いだ設計になれば、経路はその倍、さらに倍へと膨れ上がっていく。 問題は経路の数だけではない。マルチクラウド環境では、クラウド間の通信が、各クラウドが定義する仮想ネットワークの境界を必ず跨ぐことになる。これは、同一クラウド内部での通信(いわゆる東西トラフィック)と比較して、遅延や帯域設計上の制約が格段に表面化しやすいことを意味する。オンプレミスとの専用線接続(AWS Direct ConnectやAzure ExpressRouteなど)や、事業者間のピアリングを経由する構成では、各プロバイダーが提供するスループットの上限、SLA(品質保証)の基準、さらには監視・計測の粒度までがバラバラである。 平時には問題なくとも、ピーク時の分析処理や夜間の大規模なバッチ転送などで、突如としてボトルネックが顕在化する。そして、障害が発生した際、この複雑なネットワーク構成が原因特定の遅れに直結する。国内の金融機関でも、北國銀行がAzure上に主要システムを移行する「フルクラウド化」を推進し、さらに次期勘定系システムではAzureとGCPを併用するマルチクラウド方針を掲げるなど、先進的な取り組みが進んでいる。しかし、こうした分野では特に、規制対応や可用性設計における監査可能性の担保が、ネットワークの複雑性を背景に極めて重い課題となっている。 そして、このネットワークという迷路以上に深刻な「最大の落とし穴」と指摘されるのが、IAM(アイデンティティとアクセス管理)である。AWS IAM、Microsoft Entra ID(旧Azure Active Directory)、GCP IAMは、それぞれが異なる思想と仕様に基づいて設計されており、これらを完全に統一されたポリシーで運用することは事実上不可能に近い。 最も頻発し、かつ危険な問題が「幽霊アカウント」の残存である。人事異動、プロジェクトの終了、あるいは外部委託先の契約満了に伴って、本来であれば即座に削除されるべきアカウントが、複雑化した管理の隙間で見落とされてしまう。監査の段階になって初めて、数ヶ月前に退職した社員のアカウントが、依然として重要なデータへのアクセス権を持ったまま放置されていた、といった事態が発覚するケースは珍しくない。 これは単なる管理上の不手際では済まされない。権限が残存したアカウントは、内部不正の温床となるだけでなく、外部からの攻撃者にとって格好の侵入口となり、大規模な情報漏洩を引き起こす致命的なリスクとなる。Flexeraの調査でも、マルチクラウドの普及は進む一方で、セキュリティの統合や運用成熟度は低い水準にとどまっていることが示されている。特に厳格な統制が求められる金融機関において、監査でIAMの統制不備が繰り返し問題視されている現実は、この課題の根深さを物語っている。 データ主権とAI規制:グローバル化が強制するシステムの分断 マルチクラウド化の波は、企業の積極的な戦略選択によってのみ進んでいるわけではない。むしろ、グローバルに事業を展開する企業にとっては、各国のデータ規制が「多国籍マルチクラウド体制」の採用を事実上強制するという側面が強まっている。 EU(欧州連合)の一般データ保護規則(GDPR)は、データの域内保存を絶対的に義務づけてはいないものの、EU域外へのデータ移転には標準契約条項(SCC)の締結など、極めて厳格な要件を課している。一方で、米国のCLOUD Act(海外データ適法利用明確化法)は、米国企業に対して、データが国外に保存されていても米国法に基づきその開示を命じ得る枠組みを定めている。さらに中国では、個人情報保護法(PIPL)やデータセキュリティ法がデータの国外持ち出しを厳しく制限し、複雑な手続きを要求する。日本もまた、2022年の改正個人情報保護法で、越境移転時の透明性確保を義務化するなど、データガバナンスへの要求を強めている。 この結果、グローバル企業は「EU域内のデータはEUリージョンのクラウドへ」「米国のデータは米国クラウドへ」「中国のデータは中国国内のクラウドへ」といった形で、各国の規制(データ主権)に対応するために、意図せずして複雑なマルチクラウド体制を構築せざるを得なくなっている。 もちろん、企業側も手をこまねいているわけではない。Snowflakeのように、AWS、Azure、GCPの3大クラウドすべてに対応したSaaS型データ基盤を活用し、物理的に分断されてしまったデータを論理的に統合・分析しようとする試みは活発だ。しかし、国ごとに異なる規制要件をすべて満たし、コンプライアンスを維持しながら、データを横断的に扱うことは容易ではない。規制とマルチクラウドの複雑性が絡み合った、新たな統治課題がここに浮き彫りになっている。 そして今、この複雑なデータ分断の構造に、生成AIや機械学習という新たなレイヤーが重ねられようとしている。AIの導入において、大規模なモデル学習と、それを活用した推論(サービス提供)を、それぞれ異なるクラウドで実行する試みは、一見すると効率的に映る。学習には潤沢なGPUリソースを持つクラウドを選び、推論は顧客に近いリージョンや低コストなクラウドで実行する、という考え方だ。 だが現実には、この構成が「監査対応」の難易度を劇的に引き上げる。学習データがどのクラウドからどのクラウドへ移動し、どのモデルがどのデータで学習され、その推論結果がどの規制に準拠しているのか。この監査証跡を、複数のクラウドを跨いで一貫性を保ったまま管理することは極めて困難である。製薬大手のノバルティスがAWSやMicrosoftとの協業で段階的なAI導入を進めている事例や、国内の製造業で同様の構成が試みられている動向からも、この「マルチクラウド特有の監査証跡管理」が共通の課題となりつつあることがわかる。加えて、2024年8月に発効したEUのAI法など、データだけでなくAIそのものへの規制が本格化する中で、この統治の困難性は増す一方である。 ブラックボックス化する現場:監視の穴と見えざるコスト 統治困難性がもたらす具体的な帰結は、まず「障害対応の遅延」という形で現場を直撃する。障害が発生した際に最も重要なのは、迅速な原因の特定と切り分けである。しかし、マルチクラウド環境では、この初動が格段に難しくなる。 なぜなら、Amazon CloudWatch、Azure Monitor、Google Cloud Operations Suiteといった各クラウドが標準で提供する監視基盤は、当然ながらそれぞれのクラウドに最適化されており、相互に分断されているからだ。収集されるログの形式、データの粒度、監視のインターフェースはすべて異なる。障害発生の通報を受け、IT担当者が複数の管理コンソールを同時に開き、形式の違うログデータを突き合わせ、相関関係を探る。単一クラウドであれば数分で特定できたはずの原因が、この「監視の分断」によって何時間も見えなくなる。 DatadogやNew Relicといった、マルチクラウドを一元的に監視できるサードパーティーツールが市場を拡大している背景には、まさにこの構造的な課題がある。しかし、ツールを導入したとしても、各クラウドの根本的な仕様の違いや、ネットワークの複雑な経路すべてを完全に可視化できるわけではなく、「監視の穴」が残存するリスクは常につきまとう。 こうした監視や障害対応の困難さは、単なる技術的な課題にとどまらず、やがて経営を圧迫する「見えざるコスト」となって跳ね返ってくる。コスト管理(FinOps)の複雑化である。CPU時間、ストレージ利用料、APIコール回数、そして特に高額になりがちなクラウド間のデータ転送料。これら課金体系はクラウドごとに全く異なり、複雑に絡み合う。 請求書のフォーマットすら統一されていないため、IT部門は毎月、異なる形式の請求書を読み解き、どの部門がどれだけのコストを発生させているのかを把握するだけで膨大な工数を費やすことになる。結果としてコストの最適化は進まず、予算超過が常態化する。HashiCorpが実施した調査では、実に91%の企業がクラウドの無駄な支出を認識していると回答し、さらに64%が「人材不足」を最大の障壁と挙げている。複雑化する運用に対応できるスキルセットを持った人材は圧倒的に不足しており、現場は疲弊している。 Synergy ResearchやOmdiaの調査によれば、クラウドインフラ市場は依然として年間20%を超える高い成長を続けている。この市場全体の拡大は、皮肉なことに、各クラウドの課金体系や監査要件の「差異」を企業組織の内部にさらに深く浸透させ、統治困難性の“母数”そのものを押し広げている。 このマルチクラウドがもたらす統治課題は、すべての産業に共通する一方で、その“顔つき”は業種ごとに異なる形で現れている。 最も厳格な要件が課される金融業界では、決済や市場接続におけるミリ秒単位の低遅延と、24時間365日の高可用性、そして取引記録の完全な監査証跡が同時に求められる。このため、オンプレミスや国内クラウドを主軸にしつつ、AIを用いた不正検知やリスクモデル計算のみを外部クラウドで行うといった二層構造が見られるが、ここでの課題は「速さと証跡」という二律背反の同期である。 製造業では、サプライチェーン全体の最適化がテーマとなる。生産ラインのデータ(OT)はエッジ側で即時処理し、設計や物流のデータ(IT)はクラウドで統合する。この際、ティア1からティアnに至る多数の取引先や外部委託がシステムにアクセスするため、クラウドを跨いだ権限管理の不備がセキュリティ上の重大な弱点となりやすい。 公共セクターでは、日本のガバメントクラウドが示すように、継続性と説明責任が最重要視される。複数のクラウドサービスを前提とした設計が求められるため、システムが特定のクラウドにロックインされない「可搬性」や「監査性」の確保が主要な課題となる。 小売業界では、顧客行動の即時分析と販促の即応性が競争力を決める。レコメンドAIや在庫連携など、業務機能単位で最適なクラウドやSaaSを選ぶため、結果的にマルチクラウド化が進む。ここでは障害発生時に、トランザクションのどの部分がどのクラウド層に起因するのかを追跡できなくなる問題が深刻であり、統合的なサービスレベル目標(SLO)管理が求められる。 また、教育・研究分野では、研究室単位や助成金ごとに利用するクラウドが異なり、事務系システムはMicrosoft

もはやクラウドは、現代の企業活動において不可逆的なインフラとなった。AWS(アマゾン ウェブ サービス)、Microsoft Azure、Google Cloud(GCP)の3大プラットフォームが市場の大部分を占める中、世界中の企業がその上でビジネスを構築している。日本においても「脱オンプレミス」は長年のスローガンであり、多くの企業がクラウド移行を推進してきた。オンプレミス時代には数年がかりであった新システムの導入が、クラウド時代には数週間で立ち上がる。この圧倒的な「俊敏性」こそが、クラウドがもたらした最大の価値であった。

しかし、単一のクラウドに全面的に依存すれば、そのサービスで発生した障害、突然の価格改定、あるいはサービス仕様の変更といった影響を、回避する術なく受け入れなければならない。2021年9月に発生したAWS東京リージョン関連のDirect Connect障害では、約6時間にわたり国内の広範なサービスに影響が及んだ。また、同年、Peach Aviationが経験した予約システム障害も、単一のシステム依存のリスクを象徴する出来事であった。開発元が「マルウェア感染」を原因と公表し、復旧までに数日を要したこのトラブルでは、航空券の購入や変更手続きが全面的に停止し、多くの利用者に混乱をもたらした。

こうしたリスクを回避し、また各クラウドの「良いとこ取り」をするために、企業がマルチクラウド戦略を採用するのは合理的な判断である。事実、Flexeraの2024年のレポートによれば、世界の企業の89%がすでにマルチクラウド戦略を採用しているという。しかし、この急速な普及の裏側で、企業側の「統治(ガバナンス)」は全く追いついていないのが実情だ。

アイデンティティとアクセス管理(IAM)、システムの監視、各国のデータ規制への対応、そしてコスト管理。複数のクラウドを組み合わせることは、単なる足し算ではなく、組み合わせの数に応じて複雑性が爆発的に増加することを意味する。マルチクラウドという合理的な選択は、同時に「統治困難性」というパンドラの箱を開けてしまったのである。この深刻な問題はまず、目に見えないインフラ層、すなわちネットワーク構成の迷路から顕在化し始めている。

接続と権限の迷宮:技術的負債化するインフラ

マルチクラウド戦略が直面する第一の壁は、ネットワークである。クラウドが一種類であれば、設計は比較的シンプルだ。VPC(AWSの仮想プライベートクラウド)やVNet(Azureの仮想ネットワーク)といった、そのクラウド内部のネットワーク設計に集中すればよかった。しかし、利用するクラウドが二つ、三つと増えた瞬間、考慮すべき接続経路は指数関数的に増加する。

例えば、従来のオンプレミス環境とAWS、Azureを組み合わせて利用するケースを考えてみよう。最低でも「オンプレミスからAWSへ」「オンプレミスからAzureへ」、そして「AWSとAzure間」という3つの主要な接続経路が発生する。さらに、可用性や地域性を考慮してリージョンを跨いだ設計になれば、経路はその倍、さらに倍へと膨れ上がっていく。

問題は経路の数だけではない。マルチクラウド環境では、クラウド間の通信が、各クラウドが定義する仮想ネットワークの境界を必ず跨ぐことになる。これは、同一クラウド内部での通信(いわゆる東西トラフィック)と比較して、遅延や帯域設計上の制約が格段に表面化しやすいことを意味する。オンプレミスとの専用線接続(AWS Direct ConnectやAzure ExpressRouteなど)や、事業者間のピアリングを経由する構成では、各プロバイダーが提供するスループットの上限、SLA(品質保証)の基準、さらには監視・計測の粒度までがバラバラである。

平時には問題なくとも、ピーク時の分析処理や夜間の大規模なバッチ転送などで、突如としてボトルネックが顕在化する。そして、障害が発生した際、この複雑なネットワーク構成が原因特定の遅れに直結する。国内の金融機関でも、北國銀行がAzure上に主要システムを移行する「フルクラウド化」を推進し、さらに次期勘定系システムではAzureとGCPを併用するマルチクラウド方針を掲げるなど、先進的な取り組みが進んでいる。しかし、こうした分野では特に、規制対応や可用性設計における監査可能性の担保が、ネットワークの複雑性を背景に極めて重い課題となっている。

そして、このネットワークという迷路以上に深刻な「最大の落とし穴」と指摘されるのが、IAM(アイデンティティとアクセス管理)である。AWS IAM、Microsoft Entra ID(旧Azure Active Directory)、GCP IAMは、それぞれが異なる思想と仕様に基づいて設計されており、これらを完全に統一されたポリシーで運用することは事実上不可能に近い。

最も頻発し、かつ危険な問題が「幽霊アカウント」の残存である。人事異動、プロジェクトの終了、あるいは外部委託先の契約満了に伴って、本来であれば即座に削除されるべきアカウントが、複雑化した管理の隙間で見落とされてしまう。監査の段階になって初めて、数ヶ月前に退職した社員のアカウントが、依然として重要なデータへのアクセス権を持ったまま放置されていた、といった事態が発覚するケースは珍しくない。

これは単なる管理上の不手際では済まされない。権限が残存したアカウントは、内部不正の温床となるだけでなく、外部からの攻撃者にとって格好の侵入口となり、大規模な情報漏洩を引き起こす致命的なリスクとなる。Flexeraの調査でも、マルチクラウドの普及は進む一方で、セキュリティの統合や運用成熟度は低い水準にとどまっていることが示されている。特に厳格な統制が求められる金融機関において、監査でIAMの統制不備が繰り返し問題視されている現実は、この課題の根深さを物語っている。

データ主権とAI規制:グローバル化が強制するシステムの分断

マルチクラウド化の波は、企業の積極的な戦略選択によってのみ進んでいるわけではない。むしろ、グローバルに事業を展開する企業にとっては、各国のデータ規制が「多国籍マルチクラウド体制」の採用を事実上強制するという側面が強まっている。

EU(欧州連合)の一般データ保護規則(GDPR)は、データの域内保存を絶対的に義務づけてはいないものの、EU域外へのデータ移転には標準契約条項(SCC)の締結など、極めて厳格な要件を課している。一方で、米国のCLOUD Act(海外データ適法利用明確化法)は、米国企業に対して、データが国外に保存されていても米国法に基づきその開示を命じ得る枠組みを定めている。さらに中国では、個人情報保護法(PIPL)やデータセキュリティ法がデータの国外持ち出しを厳しく制限し、複雑な手続きを要求する。日本もまた、2022年の改正個人情報保護法で、越境移転時の透明性確保を義務化するなど、データガバナンスへの要求を強めている。

この結果、グローバル企業は「EU域内のデータはEUリージョンのクラウドへ」「米国のデータは米国クラウドへ」「中国のデータは中国国内のクラウドへ」といった形で、各国の規制(データ主権)に対応するために、意図せずして複雑なマルチクラウド体制を構築せざるを得なくなっている。

もちろん、企業側も手をこまねいているわけではない。Snowflakeのように、AWS、Azure、GCPの3大クラウドすべてに対応したSaaS型データ基盤を活用し、物理的に分断されてしまったデータを論理的に統合・分析しようとする試みは活発だ。しかし、国ごとに異なる規制要件をすべて満たし、コンプライアンスを維持しながら、データを横断的に扱うことは容易ではない。規制とマルチクラウドの複雑性が絡み合った、新たな統治課題がここに浮き彫りになっている。

そして今、この複雑なデータ分断の構造に、生成AIや機械学習という新たなレイヤーが重ねられようとしている。AIの導入において、大規模なモデル学習と、それを活用した推論(サービス提供)を、それぞれ異なるクラウドで実行する試みは、一見すると効率的に映る。学習には潤沢なGPUリソースを持つクラウドを選び、推論は顧客に近いリージョンや低コストなクラウドで実行する、という考え方だ。

だが現実には、この構成が「監査対応」の難易度を劇的に引き上げる。学習データがどのクラウドからどのクラウドへ移動し、どのモデルがどのデータで学習され、その推論結果がどの規制に準拠しているのか。この監査証跡を、複数のクラウドを跨いで一貫性を保ったまま管理することは極めて困難である。製薬大手のノバルティスがAWSやMicrosoftとの協業で段階的なAI導入を進めている事例や、国内の製造業で同様の構成が試みられている動向からも、この「マルチクラウド特有の監査証跡管理」が共通の課題となりつつあることがわかる。加えて、2024年8月に発効したEUのAI法など、データだけでなくAIそのものへの規制が本格化する中で、この統治の困難性は増す一方である。

ブラックボックス化する現場:監視の穴と見えざるコスト

統治困難性がもたらす具体的な帰結は、まず「障害対応の遅延」という形で現場を直撃する。障害が発生した際に最も重要なのは、迅速な原因の特定と切り分けである。しかし、マルチクラウド環境では、この初動が格段に難しくなる。

なぜなら、Amazon CloudWatch、Azure Monitor、Google Cloud Operations Suiteといった各クラウドが標準で提供する監視基盤は、当然ながらそれぞれのクラウドに最適化されており、相互に分断されているからだ。収集されるログの形式、データの粒度、監視のインターフェースはすべて異なる。障害発生の通報を受け、IT担当者が複数の管理コンソールを同時に開き、形式の違うログデータを突き合わせ、相関関係を探る。単一クラウドであれば数分で特定できたはずの原因が、この「監視の分断」によって何時間も見えなくなる。

DatadogやNew Relicといった、マルチクラウドを一元的に監視できるサードパーティーツールが市場を拡大している背景には、まさにこの構造的な課題がある。しかし、ツールを導入したとしても、各クラウドの根本的な仕様の違いや、ネットワークの複雑な経路すべてを完全に可視化できるわけではなく、「監視の穴」が残存するリスクは常につきまとう。

こうした監視や障害対応の困難さは、単なる技術的な課題にとどまらず、やがて経営を圧迫する「見えざるコスト」となって跳ね返ってくる。コスト管理(FinOps)の複雑化である。CPU時間、ストレージ利用料、APIコール回数、そして特に高額になりがちなクラウド間のデータ転送料。これら課金体系はクラウドごとに全く異なり、複雑に絡み合う。

請求書のフォーマットすら統一されていないため、IT部門は毎月、異なる形式の請求書を読み解き、どの部門がどれだけのコストを発生させているのかを把握するだけで膨大な工数を費やすことになる。結果としてコストの最適化は進まず、予算超過が常態化する。HashiCorpが実施した調査では、実に91%の企業がクラウドの無駄な支出を認識していると回答し、さらに64%が「人材不足」を最大の障壁と挙げている。複雑化する運用に対応できるスキルセットを持った人材は圧倒的に不足しており、現場は疲弊している。

Synergy ResearchやOmdiaの調査によれば、クラウドインフラ市場は依然として年間20%を超える高い成長を続けている。この市場全体の拡大は、皮肉なことに、各クラウドの課金体系や監査要件の「差異」を企業組織の内部にさらに深く浸透させ、統治困難性の“母数”そのものを押し広げている。

このマルチクラウドがもたらす統治課題は、すべての産業に共通する一方で、その“顔つき”は業種ごとに異なる形で現れている。

最も厳格な要件が課される金融業界では、決済や市場接続におけるミリ秒単位の低遅延と、24時間365日の高可用性、そして取引記録の完全な監査証跡が同時に求められる。このため、オンプレミスや国内クラウドを主軸にしつつ、AIを用いた不正検知やリスクモデル計算のみを外部クラウドで行うといった二層構造が見られるが、ここでの課題は「速さと証跡」という二律背反の同期である。

製造業では、サプライチェーン全体の最適化がテーマとなる。生産ラインのデータ(OT)はエッジ側で即時処理し、設計や物流のデータ(IT)はクラウドで統合する。この際、ティア1からティアnに至る多数の取引先や外部委託がシステムにアクセスするため、クラウドを跨いだ権限管理の不備がセキュリティ上の重大な弱点となりやすい。

公共セクターでは、日本のガバメントクラウドが示すように、継続性と説明責任が最重要視される。複数のクラウドサービスを前提とした設計が求められるため、システムが特定のクラウドにロックインされない「可搬性」や「監査性」の確保が主要な課題となる。

小売業界では、顧客行動の即時分析と販促の即応性が競争力を決める。レコメンドAIや在庫連携など、業務機能単位で最適なクラウドやSaaSを選ぶため、結果的にマルチクラウド化が進む。ここでは障害発生時に、トランザクションのどの部分がどのクラウド層に起因するのかを追跡できなくなる問題が深刻であり、統合的なサービスレベル目標(SLO)管理が求められる。

また、教育・研究分野では、研究室単位や助成金ごとに利用するクラウドが異なり、事務系システムはMicrosoft 365、研究用AIはGCP、論文データ共有はAWSといった「意図せぬマルチクラウド」が常態化しやすい。ここでは、入れ替わりの激しい研究者や学生のアイデンティティをいかにライフサイクル管理するかが、コンプライアンスの鍵を握っている。

金融は規制適合性、製造はサプライチェーンの透明性、公共はデジタル主権。産業ごとに直面する課題は異なっていても、その根底にあるのは「複雑性の統治能力が、そのまま企業の競争力と相関している」という共通の現実である。

マルチクラウドは、リスクを分散し俊敏性を高める「資産」にもなれば、利便性を求めて無秩序に拡張した結果、やがて制御不能な「負債」へと転じる危険もはらんでいる。未来を決めるのは、どの技術を導入したか、ではない。その技術が必然的にもたらす複雑性を、持続的に統治できる組織体制と能力こそが、マルチクラウド時代における企業の真の競争力を左右しつつある。…
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対談:「生成AIのセキュリティガバナンス」──法規制、リスク、そして国際動向

生成AI規制の現在地──国内外の法制度と企業対応 ―― まずは、生成AIに関する法規制の現状について伺います。日本国内ではどのような規制があるのでしょうか。 柴山 AIに関する規制は大きく分けて2つあります。1つはAIを直接対象とした包括的な規制、もう1つは既存の個別法による規制です。前者の代表例としてはEUの「AI Act(エーアイ・アクト)」があります。これはハードロー、つまり法的義務を課す厳格な規制です。一方、アメリカは連邦レベルではAIに対する明確な法規制はなく、むしろ推進の方向です。日本はその中間というか、独自路線を取っています。今年、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が制定されました。これは事業者への協力義務を課していますが、協力しなかったとしても罰則はありません。つまり、法律はあるが、ソフトローに近い緩やかな義務を課す形です。 ―― 個別法による規制についても教えてください。 柴山 生成AIを使った結果、名誉毀損や著作権侵害等が起きれば、当然ながら既存の法律が適用されます。特に重要なのは「個人情報保護法」と「著作権法」です。これらは生成AIの入力・出力両面でリスク管理の要となります。 ―― 企業が生成AIを導入する際、法的リスクとして特に留意すべき点は何でしょうか。 柴山 まず「入力」の段階では、個人情報や機密情報をAIに渡してよいかが問題になります。秘密保持義務の対象となる情報を入力してしまうと契約違反につながる可能性がありますし、個人データを入力すると、法令違反になるケースがあります。「出力」に関しては、誤情報の生成や著作権侵害が懸念されます。例えば、生成された画像やコードが既存の著作物に酷似していた場合、著作権侵害として損害賠償の対象となるリスクがあります。 ―― 具体的な対応策はありますか。 柴山 まず、信頼できるサービスを選ぶことが重要です。個人情報保護法の観点では、個人データを入力する場合、個人データを提供したとされる場合があり、その場合は原則として本人同意が必要ですが、安全管理措置が講じられている等一定の要件を満たせば、同意不要な場合もあります。利用規約やData Processing Addendum(DPA)と呼ばれるデータ取り扱いの合意書等を確認することが大切です。出力に関しては、著作権的に安全なデータで学習されたモデルを選ぶ、プロンプト(指示文)設計に注意する、特定の著作物を模倣しないなどの工夫が求められます。 ―― データベースの所在によってもリスクは変わりますか。 柴山 はい。国によってデータ保護法制の内容は異なります。例えば、中国にデータが渡ると、現地法により政府に情報提供が義務付けられる可能性があります。DeepSeekの事例では、個人情報保護委員会が注意喚起を行いました(※)。民主主義国とは異なる法体系を持つ国では、特にデータの越境移転に慎重になる必要があります。 (※参考:個人情報保護委員会事務局「DeepSeekに関する情報提供」(令和7年2月3日(令和7年3月5日更新)https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/250203_alert_deepseek/) ―― 自社でデータベースを構築することでリスクを回避できますか。 柴山 可能です。コード等が公開されているモデルであれば、自社環境に持ち込んで運用することで、外部へのデータ流出リスクを抑えられます。ただし、クラウド型サービスの方がセキュリティ等の面で優れている場合もあり、データ管理体制を十分に確認したうえで、クラウド型サービスを利用する方が良い場合も多いでしょう。 ―― 海外の規制動向は、日本にどのような影響を与えるでしょうか。 柴山 EUのAI Act は、EU圏でビジネスをする企業には直接適用されます。さらに、グローバルな標準形成にも影響を与えるため、EUで事業を展開していない企業にも間接的な影響があります。アメリカはソフトロー的なアプローチですが、韓国はEUに追随する形でAI基本法を制定しました。中国は独自のハードローを採用していますが、EUとは毛色が異なります。世界的な潮流はまだ定まっていない状況です。 ―― AIガバナンスに関して、国際的な基準との整合性はどう図るべきでしょうか。 柴山 たとえばGDPR(General Data Protection Regulation、EU一般データ保護規則)のように、EUが打ち出す規制は「ブリュッセル効果」と呼ばれ、他国にも影響を与えます。AI Act もその延長線上にあり、日本企業も無視できません。また、投資家がAIガバナンス体制の整備を求めるという動きもありますので、今後、企業にAIガバナンス体制構築を求める動きは加速していくでしょう。 飯田 グローバルに展開する企業は、地域ごとの法的・倫理的要請を無視できません。結果的に、厳しい基準に合わせざるを得ない。緩い基準に合わせると、他地域では受け入れられないという現実があります。 柴山 日本のルールがそのままグローバルスタンダードになることはないでしょう。ただ、著作権法などでは世界に先駆けた規制緩和を行ってきた実績もあります。ルール形成のスピード感では、日本も一定の存在感を示しています。 生成AIとサイバーセキュリティ──漏洩・誤情報・著作権リスクとサイバー攻撃への備え ―― 生成AIにおけるセキュリティリスクについて、飯田さんはいかがでしょうか。 飯田 典型的なリスクは3つあります。1つ目は情報漏洩、2つ目はハルシネーション(誤情報の生成)、3つ目は著作権侵害です。これらはすべて、学習データの質と管理に起因します。 例えば、学習データに個人情報や機密情報が含まれていると、それがアウトプットに現れる可能性があります。企業独自の情報を活用する場合は、閉じた環境でモデルを構築することが望ましいです。 ―― パブリックなサービスを使う場合の注意点は? 飯田 誰でも使えるサービスに企業の機密情報を入力すると、意図せず漏洩するリスクがあります。そのため、パブリックなモデルを使う場合は、入力データの選定に細心の注意を払う必要があります。 ―― AIはサイバー攻撃の新たな標的になる可能性はありますか。 飯田 AIが新たな攻撃対象になるという意味では、確かにリスクは増えています。たとえば、企業が独自に構築したLLM(大規模言語モデル)に対して、外部から不正アクセスを試みる攻撃が発生する可能性もあります。ただし、これはAIに限った話ではなく、従来のサーバーやクラウド環境と同様に、適切なセキュリティ対策を講じていれば、一定の防御は可能です。現実には、サイバー攻撃の被害に遭っている企業は少なくありません。だからこそ、AIを導入するかどうかにかかわらず、DXの進展に伴って情報セキュリティ全体を強化する必要があります。AIだから特別に強化するというよりも、AIを含めた全体の情報資産を守るという視点が重要です。 ―― つまり、AIの導入によって攻撃対象が増えるという見方もできますね。 飯田 そうですね。犯罪者の視点から見れば、AIは新たな「盗みどころ」になる可能性があります。今まで別の経路から盗まなければならなかった情報が、AIの学習データや出力を通じて取得できるようになるとすれば、それは攻撃対象の拡大です。ただ、この議論はクラウドが普及した時期の議論と非常に似ています。クラウド導入時も「外部にデータを預けるのは危険だ」という声がありましたが、今では多くの企業がクラウドを活用しています。AIも同様で、リスクはあるが、適切な対策を講じれば十分に活用できる技術です。 社内ガバナンスの設計──責任体制・アクセス制御・教育 ―― 生成AIの導入・運用において、企業内での責任分担はどう整理すべきでしょうか。 飯田 AIは法務・人事・技術など多岐にわたる領域に関わるため、1部門で完結するのは難しいです。責任者を明確に任命し、窓口となる部門を設けて、他部門と連携する体制が現実的です。 ―― 日本企業では「サイロ化」が課題になりがちですが、どう対応すべきでしょうか。 飯田 「Chief AI Officer(CAIO)」のような横断的な責任者を設け、その人に権限を与えることで、部門間の連携を促進できます。デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」も参考になります。各府庁にCAIOを置き、リスク評価シートを用いてAIの導入判断を行い、所管のデジタル庁の相談窓口に相談がいくようになっています。また、有識者による助言体制も整えています。これを企業に応用することで、実効性のあるガバナンスが可能になります。 ―― AIモデルの学習において、機密情報をどのように扱うべきですか。 飯田 業務効率化を目的とするなら、企業が収集した顧客情報をAIに活用する場面は避けられません。ただし、その情報が「学習用データ」として使えるかどうかは、収集時の利用目的と照らし合わせて確認する必要があります。ユーザーに提示した目的と異なる使い方をすれば、法的・倫理的な問題が生じます。例えば、名前やメールアドレス、生年月日などの個人情報を学習に使いたい場合、その情報が「学習目的」で収集されたものであるかを確認する必要があります。また、人事情報──給与や評価など──を使う場合も、部門間での情報共有に制限があるため、アクセスコントロールが不可欠です。 ―― 情報の重要度に応じたラベリングも必要ですね。 飯田 情報の機密性に応じて、どの部門・職責に開示すべきかを定義し、モデルごとにアクセス制限を設ける。すべての情報を1つのモデルに学習させるのではなく、用途や対象者に応じてモデルを分ける工夫が求められます。 ―― 社内で生成AIを導入する際、セキュリティポリシーや制御設計はどうあるべきでしょうか。 飯田 まずは「誰が、どの情報に、どこまでアクセスできるか」を明確にすることが重要です。導入前に、どの部署がどのような目的でAIを使うのか、どんなリスクがあるのかを整理し、それに応じたポリシーで設計する必要があります。 ―― 社内モデルとパブリックモデルの使い分けも重要ですね。 飯田 そうです。社内の機密情報を活用するなら、独自のAIモデルを構築すべきです。一方、一般的な情報収集にはパブリックなサービスを使う。用途に応じたモデル選定とポリシーの明確化が求められます。

生成AI規制の現在地──国内外の法制度と企業対応

―― まずは、生成AIに関する法規制の現状について伺います。日本国内ではどのような規制があるのでしょうか。

柴山 AIに関する規制は大きく分けて2つあります。1つはAIを直接対象とした包括的な規制、もう1つは既存の個別法による規制です。前者の代表例としてはEUの「AI Act(エーアイ・アクト)」があります。これはハードロー、つまり法的義務を課す厳格な規制です。一方、アメリカは連邦レベルではAIに対する明確な法規制はなく、むしろ推進の方向です。日本はその中間というか、独自路線を取っています。今年、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が制定されました。これは事業者への協力義務を課していますが、協力しなかったとしても罰則はありません。つまり、法律はあるが、ソフトローに近い緩やかな義務を課す形です。

―― 個別法による規制についても教えてください。

柴山 生成AIを使った結果、名誉毀損や著作権侵害等が起きれば、当然ながら既存の法律が適用されます。特に重要なのは「個人情報保護法」と「著作権法」です。これらは生成AIの入力・出力両面でリスク管理の要となります。

―― 企業が生成AIを導入する際、法的リスクとして特に留意すべき点は何でしょうか。

柴山 まず「入力」の段階では、個人情報や機密情報をAIに渡してよいかが問題になります。秘密保持義務の対象となる情報を入力してしまうと契約違反につながる可能性がありますし、個人データを入力すると、法令違反になるケースがあります。「出力」に関しては、誤情報の生成や著作権侵害が懸念されます。例えば、生成された画像やコードが既存の著作物に酷似していた場合、著作権侵害として損害賠償の対象となるリスクがあります。

―― 具体的な対応策はありますか。

柴山 まず、信頼できるサービスを選ぶことが重要です。個人情報保護法の観点では、個人データを入力する場合、個人データを提供したとされる場合があり、その場合は原則として本人同意が必要ですが、安全管理措置が講じられている等一定の要件を満たせば、同意不要な場合もあります。利用規約やData Processing Addendum(DPA)と呼ばれるデータ取り扱いの合意書等を確認することが大切です。出力に関しては、著作権的に安全なデータで学習されたモデルを選ぶ、プロンプト(指示文)設計に注意する、特定の著作物を模倣しないなどの工夫が求められます。

―― データベースの所在によってもリスクは変わりますか。

柴山 はい。国によってデータ保護法制の内容は異なります。例えば、中国にデータが渡ると、現地法により政府に情報提供が義務付けられる可能性があります。DeepSeekの事例では、個人情報保護委員会が注意喚起を行いました(※)。民主主義国とは異なる法体系を持つ国では、特にデータの越境移転に慎重になる必要があります。

(※参考:個人情報保護委員会事務局「DeepSeekに関する情報提供」(令和7年2月3日(令和7年3月5日更新)https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/250203_alert_deepseek/)

―― 自社でデータベースを構築することでリスクを回避できますか。

柴山 可能です。コード等が公開されているモデルであれば、自社環境に持ち込んで運用することで、外部へのデータ流出リスクを抑えられます。ただし、クラウド型サービスの方がセキュリティ等の面で優れている場合もあり、データ管理体制を十分に確認したうえで、クラウド型サービスを利用する方が良い場合も多いでしょう。

―― 海外の規制動向は、日本にどのような影響を与えるでしょうか。

柴山 EUのAI Act は、EU圏でビジネスをする企業には直接適用されます。さらに、グローバルな標準形成にも影響を与えるため、EUで事業を展開していない企業にも間接的な影響があります。アメリカはソフトロー的なアプローチですが、韓国はEUに追随する形でAI基本法を制定しました。中国は独自のハードローを採用していますが、EUとは毛色が異なります。世界的な潮流はまだ定まっていない状況です。

―― AIガバナンスに関して、国際的な基準との整合性はどう図るべきでしょうか。

柴山 たとえばGDPR(General Data Protection Regulation、EU一般データ保護規則)のように、EUが打ち出す規制は「ブリュッセル効果」と呼ばれ、他国にも影響を与えます。AI Act もその延長線上にあり、日本企業も無視できません。また、投資家がAIガバナンス体制の整備を求めるという動きもありますので、今後、企業にAIガバナンス体制構築を求める動きは加速していくでしょう。

飯田 グローバルに展開する企業は、地域ごとの法的・倫理的要請を無視できません。結果的に、厳しい基準に合わせざるを得ない。緩い基準に合わせると、他地域では受け入れられないという現実があります。

柴山 日本のルールがそのままグローバルスタンダードになることはないでしょう。ただ、著作権法などでは世界に先駆けた規制緩和を行ってきた実績もあります。ルール形成のスピード感では、日本も一定の存在感を示しています。

生成AIとサイバーセキュリティ──漏洩・誤情報・著作権リスクとサイバー攻撃への備え

―― 生成AIにおけるセキュリティリスクについて、飯田さんはいかがでしょうか。

飯田 典型的なリスクは3つあります。1つ目は情報漏洩、2つ目はハルシネーション(誤情報の生成)、3つ目は著作権侵害です。これらはすべて、学習データの質と管理に起因します。

例えば、学習データに個人情報や機密情報が含まれていると、それがアウトプットに現れる可能性があります。企業独自の情報を活用する場合は、閉じた環境でモデルを構築することが望ましいです。

―― パブリックなサービスを使う場合の注意点は?

飯田 誰でも使えるサービスに企業の機密情報を入力すると、意図せず漏洩するリスクがあります。そのため、パブリックなモデルを使う場合は、入力データの選定に細心の注意を払う必要があります。

―― AIはサイバー攻撃の新たな標的になる可能性はありますか。

飯田 AIが新たな攻撃対象になるという意味では、確かにリスクは増えています。たとえば、企業が独自に構築したLLM(大規模言語モデル)に対して、外部から不正アクセスを試みる攻撃が発生する可能性もあります。ただし、これはAIに限った話ではなく、従来のサーバーやクラウド環境と同様に、適切なセキュリティ対策を講じていれば、一定の防御は可能です。現実には、サイバー攻撃の被害に遭っている企業は少なくありません。だからこそ、AIを導入するかどうかにかかわらず、DXの進展に伴って情報セキュリティ全体を強化する必要があります。AIだから特別に強化するというよりも、AIを含めた全体の情報資産を守るという視点が重要です。

―― つまり、AIの導入によって攻撃対象が増えるという見方もできますね。

飯田 そうですね。犯罪者の視点から見れば、AIは新たな「盗みどころ」になる可能性があります。今まで別の経路から盗まなければならなかった情報が、AIの学習データや出力を通じて取得できるようになるとすれば、それは攻撃対象の拡大です。ただ、この議論はクラウドが普及した時期の議論と非常に似ています。クラウド導入時も「外部にデータを預けるのは危険だ」という声がありましたが、今では多くの企業がクラウドを活用しています。AIも同様で、リスクはあるが、適切な対策を講じれば十分に活用できる技術です。

社内ガバナンスの設計──責任体制・アクセス制御・教育

―― 生成AIの導入・運用において、企業内での責任分担はどう整理すべきでしょうか。

飯田 AIは法務・人事・技術など多岐にわたる領域に関わるため、1部門で完結するのは難しいです。責任者を明確に任命し、窓口となる部門を設けて、他部門と連携する体制が現実的です。

―― 日本企業では「サイロ化」が課題になりがちですが、どう対応すべきでしょうか。

飯田 「Chief AI Officer(CAIO)」のような横断的な責任者を設け、その人に権限を与えることで、部門間の連携を促進できます。デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」も参考になります。各府庁にCAIOを置き、リスク評価シートを用いてAIの導入判断を行い、所管のデジタル庁の相談窓口に相談がいくようになっています。また、有識者による助言体制も整えています。これを企業に応用することで、実効性のあるガバナンスが可能になります。

―― AIモデルの学習において、機密情報をどのように扱うべきですか。

飯田 業務効率化を目的とするなら、企業が収集した顧客情報をAIに活用する場面は避けられません。ただし、その情報が「学習用データ」として使えるかどうかは、収集時の利用目的と照らし合わせて確認する必要があります。ユーザーに提示した目的と異なる使い方をすれば、法的・倫理的な問題が生じます。例えば、名前やメールアドレス、生年月日などの個人情報を学習に使いたい場合、その情報が「学習目的」で収集されたものであるかを確認する必要があります。また、人事情報──給与や評価など──を使う場合も、部門間での情報共有に制限があるため、アクセスコントロールが不可欠です。

―― 情報の重要度に応じたラベリングも必要ですね。

飯田 情報の機密性に応じて、どの部門・職責に開示すべきかを定義し、モデルごとにアクセス制限を設ける。すべての情報を1つのモデルに学習させるのではなく、用途や対象者に応じてモデルを分ける工夫が求められます。

―― 社内で生成AIを導入する際、セキュリティポリシーや制御設計はどうあるべきでしょうか。

飯田 まずは「誰が、どの情報に、どこまでアクセスできるか」を明確にすることが重要です。導入前に、どの部署がどのような目的でAIを使うのか、どんなリスクがあるのかを整理し、それに応じたポリシーで設計する必要があります。

―― 社内モデルとパブリックモデルの使い分けも重要ですね。

飯田 そうです。社内の機密情報を活用するなら、独自のAIモデルを構築すべきです。一方、一般的な情報収集にはパブリックなサービスを使う。用途に応じたモデル選定とポリシーの明確化が求められます。

ベンダーとの契約──契約と交渉のポイント

―― 生成AIを自社に導入する場合、ベンダーとの契約上どんな点に注意すべきでしょうか。

柴山 生成AIを自社に導入する場合、SaaSのようなパッケージ型のサービスを導入する場合とベンダーに開発を委託して自社向けにカスタマイズする場合の2種類があります。前者は利用規約が固定されているため、規約を読み込んで、どこまでの情報を入力できるかを判断する必要があります。後者は交渉の余地があるため、権利の帰属、利用条件、データの取り扱いなどを明確にすることが重要です。

―― 自社のノウハウが漏れるリスクもありますね。

柴山 はい。渡したデータが別製品の開発等に転用される可能性もあるため、契約で利用範囲を明確に定めておくことが重要です。たとえば、開発委託の場合、提供したデータを使って作られたAIモデルが、他社サービスへの展開にあたっても利用されるような事態を避けるために、成果物の利用条件や権利帰属を契約書でしっかり規定しておく必要があります。

―― 実際に、データ提供した企業が自社の情報にアクセスできなくなるケースもあると聞きます。

柴山 契約時に利用条件を明確にしていなければ、いわゆるベンダーロックインと呼ばれる状況が起こることもあり得ます。AI開発においては、データの取り扱いと成果物の利用条件をセットで考えることが不可欠です。

―― 社内でAIを利用する場合には、社内のルールを決めておくことも重要でしょうか。

柴山 はい。ここまでに述べたような法的リスクに対応するには、最低限のルールを定めておくことが必要です。

飯田 加えて、ルールを策定しただけでは不十分で、それをどう社内に浸透させるかが課題になります。ポリシーを作っても、従業員がその内容を理解し、実践できなければ意味がありません。教育と技術的な補完策の両面から、セキュリティガバナンスを構築する必要があります。

柴山 法的な観点からも、教育は非常に重要です。たとえば「個人情報を入力しないでください」と言われても、何が個人情報かを理解していないと、誤って入力してしまうことがあります。自社の業務に即した具体例を示しながら、動画などで教育コンテンツを提供するのが有効です。

技術の進化と制度の遅れ──「前例なき意思決定」が問われる時代へ

―― 技術の進化に法制度が追いつかない場合、企業にはどのような対応が求められるのでしょうか。

柴山 リスクベースアプローチ(リスクの重要度に応じて対策を講じる考え方)が鍵です。法律が想定しておらず、前例もない状況で、自社でリスク評価をして意思決定できるかどうか。日本企業は前例を探しがちですが、今後は「前例がないからやらない」ではなく、「自社で判断する」力が問われます。

飯田 業界団体で「ここまではできる」という標準を作り、その上で企業が個別判断するという構造が理想です。そうすれば、現場の担当者にリスクを押し付けることなく、組織として意思決定ができます。

柴山 CIOやCAIOのような責任者を明確にし、ルールを定めることで、現場が安心して使える環境を整えることができます。

飯田 日本は労働人口の減少という構造的課題を抱えています。AIはその補完手段として不可欠な技術です。導入企業は今後さらに増えるでしょうし、一度使えば手放せなくなるほど便利です。

柴山 ガバナンスは抑止のためではなく、安全に、そしてポジティブに活用するための仕組みです。しり込みせず、前向きに使っていただきたいです。

飯田 セキュリティやガバナンスは「使わせないため」ではなく、「安心して使ってもらうため」に設計するものです。その前提が共有されれば、AI活用はより健全に広がっていくはずです。…
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